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Vol.01 「菩提樹のカフェ」に期待すること |
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| 再建されたかつての名文学カフェ、グリーンシュタイドル |
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19世紀末から20世紀初頭の、ヨーロッパの文化都市では「カフェ文化」が花開きました。その中でも芸術の都ウィーン(オーストリア)のカフェは一種独特の繁栄をしてきました。業種を現すカフェ「Café」というフランス語をドイツ語のKaffeehausカフェハウスという言葉に言い換えた時、それはほとんど「ウィーンの」カフェだけを指し示す言葉として使われることが多いのです。
Hausというのは家という意味ですから、家のような所、自分が自分でいられる場所、好きな人たちと出会える場所、居心地良く、くつろげる場所。コーヒーを飲みながら新聞を読んだり、手紙を書いたり、重要な会議をしたり、各人まるで我が家のごとく行きつけのカフェを利用しています。ドイツ語にはgemuetlichゲミュートリッヒという言葉がありますが、日本語に訳しにくい独特の居心地の良さを表し、ウィーンのカフェこそがどこよりも私にとってはgemuetlichな空間です。気候の良い時はSchanigartenシャニガルテンと呼ばれる屋外のテーブルが用意され、開放的な雰囲気に包まれますが、ウィーンのカフェハウスの最大の特徴は、隠れ家的な、閉ざされた空間だと言えるでしょう。
特に冬はカフェハウスの存在を強く印象付けます。凍てつく真冬の街を歩いて、寒さに震えてカフェの扉を開けると、寒気が室内に入らないように取り付けられた分厚い毛布地のようなカーテンが視界を遮ります。その重いカーテンを持ち上げるようにして中に入るとそこは別世界。シャンデリアの光が揺らめき、高い天井に響く人々の話し声、暖かい空気、黒いスーツのウェイターがテーブルの間を縫うように動き回り、新しい客の顔を見つけるとGruess gott! グリュース・ゴット(こんにちは)と声を掛けてきます。この瞬間何ともいえない安堵感、幸せな気持ちが私の心を包みこみます。ゆっくりとコートをぬいでコート掛けに引っ掛けて身軽になり、布地貼りの長椅子に腰掛け、ぼんやりと室内を見渡しながら暖かいコーヒーを飲む至福の時。凍えた体にぬくもりが甦り、自分が生気を帯びてくるのがわかります。日本のようにBGMをかけたりはしないので、静かな話し声だけが聞え、自分の世界を守りながら多くの人に囲まれているという安堵感も得られます。ウィーンのカフェを「孤独を望みながら完全に一人でいられない人が行く場所」と言った人がいますが、まさにぴったり。
ウィーンのカフェといっても様々なスタイルの店がありますし、居心地がいい場所ばかりとは限らないので、できるだけ多くのカフェ巡りをして自分のカフェを見つける必要があります。私の求める条件は1.gemuetlichであること 2.ウィーンの伝統的なスタイルの建築、内装であること 3.ウェイターが紳士的であること 4.静かであること 5.観光客がいないこと 6.もちろんコーヒーが美味しいこと…こんな感じですか。正直に言うと、この条件を満たすカフェはウィーンにもごくわずかしかありません。若者向けのカフェやモダンで小奇麗なカフェが多いですし、セルフサービスのチェーン店がウィーンにも進出する時代。伝統的なカフェ文化が今後も保たれていくのか少々気掛かりです。
そんな思いを抱いていた私が「菩提樹」でカフェを始めることになりました。どうせなら、理想的なウィーンのカフェを自分で作ってしまおうと思ったわけです。しかし、特定のお店をコピーするということではありません。一番大切にしたいのは、ウィーンのカフェの精神を引き継いで、菩提樹を小さな「文化施設」として機能させたい、ということ。パソコンや携帯電話、スピーカーから聞える大音量の音刺激、そういったものから少し離れて、静寂の中に身を置いたり、美しいものに触れたり、人との出会いがあったり、刺激を受けたり、そんな自分磨きの場所として菩提樹のカフェやイベントをご利用頂けたら、私たちが失いかけている大切なものを少しだけ取り戻せないかな、と期待しています。
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